自然農

自然農が教えてくれた、人生を変える3つの気づき

── 土に触れて、見えてきた本当の豊かさとは?

◆ 忙しさに追われる毎日から、自然に惹かれたきっかけ

かつての僕は、“効率”と“成果”を何より大切にする生き方をしていました。
どれだけ早く結果を出せるか、どれだけ無駄を省けるか。
そんなことばかりを考えて、日々を駆け抜けていた気がします。
予定表はいつもびっしり。心も頭も、どこかいつも張りつめていました。

そんな僕の価値観を大きく揺さぶったのが、「家族の健康」でした。
3人目の子どもがアトピー体質で生まれてきたとき、
病院で出された薬だけでは良くならず、いよいよ「食べ物や生活環境から見直さなければ」と思い至ったのです。

“赤ちゃんが食べるものに注意しなさい”と整体の先生に言われ、
調味料を見直し、加工食品を控え、自分の手で野菜を育ててみようと思ったのが、自然農との最初の出会いでした。

最初は父のまねからでしたが、土にふれ、タネをまき、芽が出るのを待つうちに、
心の中に少しずつ、今までになかった静かな感覚が広がっていきました。

自然農という言葉すら知らなかったあの頃。
ただ「子どものために」と始めた26年前その一歩が、まさか自分自身の価値観を、
そして生き方そのものをこんなにも変えるとは、想像すらしていませんでした。

その出会いから今日まで、僕は自然農を通じて数えきれないほどの学びと気づきを得てきました。
今回のブログでは、その中でも特に心に残っている「人生を変えた3つの気づき」をお伝えしたいと思います。

自然農がくれたこの気づきが、いま心が少し疲れているあなたの、なにかのヒントになれば嬉しいです。

◆ 気づき①:「急がなくていい」──自然のペースに寄り添う生き方

自然農を始めて最初に感じたのは、「あれ?全然芽が出ない…」という戸惑いでした。
ホームセンターで野菜の苗を買ってくれば簡単に野菜は作れます。けれど自然農は、土の力だけに頼る無肥料・無農薬の栽培。タネをまいたら、ただ静かに待つしかありません。

もちろん、待っている間も水をあげたり、草の様子を見たりはします。けれど、「成長を急かす」ことはできない。
どれだけ心配しても、どれだけ「早く芽を出して」と願っても、タネは自分のタイミングでしか動いてくれないのです。

この経験は、僕の心に大きな気づきをくれました。

「焦らなくていいんだ」と。

それまでの僕は、何事もスピード重視。
すぐ結果を出したくて、早く答えが欲しくて、人間関係にも仕事にも“効率”を求めすぎていました。
でも、自然の中には「無理に進める」という発想はありません。
春が来なければ芽は出ないし、根が張らなければ花も咲きません。

そんな当たり前のサイクルに触れているうちに、だんだんと「自分の人生も、急がなくていいのかもしれない」と思えるようになったんです。

たとえば、人との関係。
「すぐにわかってほしい」「すぐに分かり合いたい」と思っていた過去の自分に、
今ならこう言えます。

「急がなくても大丈夫。信じて、見守っていれば、きっと必要なタイミングで芽が出るから」と。

また、自分自身の選択にも同じことが言えます。
「早く決めなきゃ」「もっと頑張らなきゃ」と無理を重ねていたときは、
心にも体にも余裕がありませんでした。

けれど、自然農の畑でゆっくりと育つ芽を見ていると、
「どんな成長にも、その人なりのペースがある」と実感できるようになりました。

タネは、急かさなくてもちゃんと芽を出します。
焦らず、あきらめず、ただ見守っていれば、必ずその時がやってくる。

自然農が教えてくれた「急がなくていい」というメッセージは、
僕の人生のあらゆる場面で、今もそっと背中を押してくれています。

◆ 気づき②:「土は裏切らない」──目に見えないところで育っているもの

自然農を始めてしばらくの頃、僕は畑の前で何度も肩を落としていました。
タネをまいたのに、なかなか芽が出ない。芽が出ても、思ったように育たない。
周りの人が立派な野菜を収穫しているのを見ては、自分の畑と比べて落ち込むこともしょっちゅうでした。

「やっぱり自分には向いていないんじゃないか」
「こんなに手をかけてるのに、なんで結果が出ないんだろう」

そんなとき、ふと思い出したのが“根っこ”の存在でした。

地上では何も起きていないように見えても、
その下ではしっかりと根が張られ、土とつながり、水を吸い、静かに力を蓄えている。
特に自然農では、土を豊かに育てるまでに年単位の時間がかかります。
最初のうちはうまく育たなくて当たり前。
むしろ、表に見えないところで“育っている”時間のほうが、野菜にとっては大切なのです。

それに気づいたとき、僕の心にもふっと明かりが灯ったような感覚がありました。

「自分の努力も、すぐには見えないだけかもしれない」と。

たとえば、人に優しくしたことや、こつこつ積み重ねた行動が、
そのときすぐに評価されたり、報われたりすることは少ないかもしれません。
でも、土の中で根が張っていくように、確かに自分の中に積み重なっていくものはあるんですよね。

自然農の畑で過ごすうちに、「見えない時間」の価値に気づけるようになりました。
雨が続いた日も、猛暑が続いた日も、土は文句ひとつ言わずに命を育んでいます。
それは人も同じで、つらい日も、報われないと感じる日も、
内側では確かに“成長の根”が伸びているのだと思います。

そして何より、土は嘘をつきません。
手を抜けばそれなりの姿に、愛情をかければその分、応えてくれます。
ただ、すぐに答えが返ってこないだけ。
けれど、信じて関わり続けていれば、必ず何かしらの形で実を結んでくれるんです。

「土は裏切らない」

この言葉は、いつの間にか僕の心の支えになっています。
人との関係でも、仕事でも、何かを始めようとする僕の背中をそっと押してくれる。
「今はまだ見えていないだけ」と思えるようになったことで、焦りや不安を手放せるようになりました。

自然農の畑で学んだ“根っこの力”は、人生のどんな場面でも僕を支えてくれる、大切な教えとなっています。

◆ 気づき③:「自然と共にある」──本当の豊かさは、身の回りにあった

自然農を続けていると、ある日ふと、「あれ?今、すごく満たされてるな…」と感じる瞬間があります。

それは、朝の畑で聞こえてくる鳥の声だったり、土の中からひょっこりと顔を出した小さな芽だったり。
収穫したばかりのミニトマトをその場でかじった時の甘さだったり。
カレンダーには書かれていない、何気ない日常の一コマに、心がほっとゆるむんです。

昔の僕は、「豊かさ=経済的な余裕や時間の自由」だと思っていました。
便利なものを手に入れて、効率よく暮らして、少しでも楽をする。
それが“満たされた人生”だと思い込んでいたんです。

でも、自然と共に過ごすようになってから、
その考えが少しずつ、だけど確実に変わっていきました。

例えば、収穫の瞬間。

自分の手でまいたタネが、何週間、何ヶ月もの時間をかけて育ち、ようやく実を結ぶ。
その野菜を手に取った瞬間、ただ「嬉しい」だけじゃなく、
「ありがたい」「ありがとう」という気持ちが自然と湧き上がってくるんです。

便利でも、買ってきた野菜にはない感動。
誰かが育ててくれたものではなく、“自分が自然と一緒に育てた”という実感。

そこに、お金では買えない満足感と癒しがありました。

また、自然とともにある暮らしは、五感を取り戻してくれる感覚もあります。
たとえば、雨上がりの畑の土の香り。
夕方、風に揺れる葉の音や、陽が傾くやさしい光。
季節の移ろいを肌で感じられるようになると、心に静かな安らぎが生まれてきます。

それは、どんな高価なものでも得られなかった感覚。
そして「自分は自然の一部なんだな」という、原点に戻るような安心感でもありました。

自然とつながっていると感じると、
どんな日でも、たとえ落ち込んだとしても、「大丈夫」と思える心の土台が育っていくんです。

自然は、押しつけてこない。
急かさないし、比べない。
ただ、静かにそこにいて、僕たちを受け入れてくれる。

この「自然と共にある」という感覚こそ、僕にとっての最大の癒しであり、
本当の“豊かさ”でした。

それは、遠くに探しに行かなくても、身近にあるもの。
土の中、風の中、葉っぱの揺れの中にある、
静かだけれど確かな満足感。

自然農の畑で、そのことに気づけたことは、人生の宝物のひとつになっています。

◆ こんな気づきをくれた自然農を、もっと多くの人に伝えたい

自然農に出会ってから、僕の人生は本当に静かに、でも確かに変わりました。

焦らなくていいと知り、
見えない努力が実っていることに気づき、
自然とつながることで、満たされていく自分に出会えた。

これらは、特別なスキルや知識があったから得られたものではありません。
立派な畑があったわけでも、高価な農機具を揃えたわけでもありません。

ただ、「土にふれてみたい」「自然に近づきたい」と思った、その気持ちをきっかけに始めただけ。
だからこそ僕は、声を大にして伝えたいのです。

自然農は、特別な人のものじゃない。
誰でも、どこにいても、ほんの小さな一歩から始められる「暮らしの選択肢」だということを。

たとえば、ベランダに小さなプランターをひとつ置く。
そこにタネをまいて、水をあげて、静かに育ちを見守る。
そのほんの数分の“土と向き合う時間”が、忙しすぎる毎日の中で、確かに心をほぐしてくれるんです。

僕自身、かつてはそんな時間すら持てないほど慌ただしく過ごしていました。
けれど、自然農にふれることで、自分のリズムが少しずつ整っていきました。

何かをガラッと変える必要はありません。
少しだけ、自然に目を向けてみる。
少しだけ、土に触れてみる。
その「ほんの少し」の積み重ねが、やがて「生き方」そのものを育ててくれるのです。

もし今、
「毎日が慌ただしくて、心が置いてけぼりになっている」
「SNSや情報に振り回されて、なにが本当かわからなくなる」
「忙しいけど、なんだか空っぽな気がする」
そんなふうに感じているなら──

きっと自然農は、そっとあなたのそばに寄り添ってくれます。
あなたがあなた自身に戻るための、静かでやさしい時間をくれるはずです。

まずは、ひとつのタネをまいてみませんか?
あなたの暮らしにも、静かな“自然”の時間が、やってきますように。

西口 吉宏

26年前から自宅の畑で無農薬栽培を始める。 60歳を機に自然農園KAIKAを経営 自然農で栽培した野菜は全国から注文が殺到するようになった。 耕作放棄地を借り現在耕作面積2000坪以上。 自然農の野菜は数少なく、プロの料理人からも絶賛。 子ども達にトマトの収穫体験をさせて食育事業にも貢献。 セミナー・体験会・お話会、 また初心者の方のための栽培サポートや 地元のビオマルシェを定期開催し 自然農普及活動に力を入れている。

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